シュール過ぎる温泉

私の趣味のひとつと言っていいものに風呂屋めぐりがあります。

ランニングは正直、汗をかいた後のひとっ風呂が楽しみで走っているといっても過言ではありません。

 

正確には、ランニング風呂ビール  

というご褒美への流れの一括りが、私のささやかな贅沢な時間と言えます。

アルコール摂取の罪悪感をランニングで相殺している点がポイントです。

 

最近は走っていない為に、風呂屋へ行くのも遠ざかっていたのですが、

先週末は寒かったせいか温泉が急に恋しくなり、

未だ行った事のない場所を探しに車を走らせたのでした。

 

車で40分程で行き着いたその施設は、

私の想像を遥かに超えるノスタルジックな場所だったのです。

 

そこは『千と千尋の神隠し』に出てくるような、

下界とは遮断された、人を寄せ付けない異様な空気につつまれた場所でした。

 

その名も「ゴールデンランド木曽岬温泉

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場所は三重と愛知の県境に位置し、木曽川を挟んだ目と鼻の先には長島温泉があります。

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外観をみると何十年と時間が止まっている佇まいなので、

営業していないのかも…と思いましたが、

駐車場に客とおぼしき3台の車が停まっているのを確認できたので、

意を決して入ってみる事にしました。

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…とりあえず風呂に自信アリって事が看板の文言から伺えます。

 

 

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初めて訪れる人は、この扉を開けることに少し勇気が要ると思います。

 

 

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扉を開けると、すぐ左に券売機があるのですが、故障と記した紙が貼ってあります。

躊躇した私に、カウンターで座ってテレビを見ていた年配の女性が、一瞬鋭い眼光で私を見つめた後、「600円です」とボソッと告げました。

この受付の女性、室内なのにマフラーに耳当てまでしています。

そうです、この寒いのに中は暖房が効いていません。

空調設備の故障か節約の為かと思いましたが、そもそも空調機自体元々無いのかもしれません。

 

 

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料金を払って薄暗い中を進んて行くと、まず目の前に現れたのは、

体育館程の大きさはあろうかと思われるお座敷ホール。

うっすら埃を被った長机は100番台までありました。

 

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舞台には意外にも色褪せていない目新しいポスターが貼ってありました。

まだたまに歌謡ショーが行なわれているのでしょうか…

 

後に調べてみたところ、昨年の春頃まで木曽岬のアイドル Amamiさん他、

ローカルスターの方々のオンステージが日曜に開催されていたようです。

 

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木曽岬温泉の伝説のアイドル  Amamiさん

マイケル・ジャクソン、戦隊ダンス、歌謡曲・アニソンから演歌までこなすマルチなエンターティナー。まさに舞台に立つために生まれてきた女の子。

ところが彼女、昨年9月に自身のブログで「助けて・・」の一言を最後に消息を絶っています。

ブログはこちら  Amamiの不思議ちゃんblog♪

 

 

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唯一、陽の光が降り注ぐ場所にマッサージコーナーがありました。

 

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マッサージコーナーのシャンデリアは今にも落ちてきそうで、

ハラハラしながらレトロなマッサージ機を楽しめそうです。

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ベッド型のマッサージ機は横たわると痒くなりそうな気がしました。

 

 

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シックで全く目立たない自販機も年代物です。

ちゃんと現在のビールを売っているようですが、電源が入っていません。

 

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今ではめっきり見なくなった、瓶タイプの自販機もあります。

電源が入っているので恐らく現役です!

 

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所々、天井が腐って落ちていますが、そこはご愛嬌。

ここでは頭に物が落ちてきたとしても、それは自己責任となる気がします。

 

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湯上りに寛ぐためのサロンには、くまのプーさん?がガラスケースに飾ってあります。

独特な世界観を醸し出していますね。

 

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まっすぐ進んだ突き当りに男湯はあります。

 

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脱衣場の籠をみると、マニア が5人程入浴しているようです。

右にみえるロッカーは100円式ですが、お金は戻ってこないタイプです。

 

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昭和チックな体重計がたまりません。

何故か私は裸足では乗る気になれませんでした。

因みに洗面台にドライヤーはありません。

 

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高級旅館の如く、湯上りの為の冷水?がクーラーポットで用意されていました。

オーナーの粋な計らいが感じられます。

このコップに抵抗を覚えた私は、遠慮させて頂きました。

 

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この向こうが浴場です。

他のお客さんがみえるので、浴場内を撮影できないのが残念です。

 

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浴場に入って驚いたのは、二人の年配の方が床に仰向けで倒れていた事です。

どうやら、この温泉はかけ流しなので、湯船から溢れて床に流れてくるお湯を背中に感じながら寝ているのだとわかりました。

 

湯船の縁に座って新聞を読んでいる常連とおぼしき方が居ます。

湯気でムンムンの中、新聞紙が湿気でヨレヨレにならないように読むのは、さぞかし高度な技を要するに違いありません。

 

他に小学生低学年の子供を連れた親子が洗い場で体をこすっていました。

親子でここに来るとは、何て粋で通好みのお父さんなのでしょう。

 

洗い場を見て、私はひとつミスを犯した事に気付きます。

ここは…石鹸もシャンプーも置いていないところでした。

もしやと脱衣場に戻って石鹸の自販機を探しましたがありません。

液体石鹸位はあるのが当然と思っていた私のミスです。

仕方ない、湯に浸かるだけとします…

 

かけ湯をする前に湯船に手を入れてみると、かなり熱い。

体感的に46℃位でしょうか。

これほど高温な浴場は野沢温泉で入った公衆浴場以来です。

 

湯船に浸かりながら改めて周りを見渡してみると、かなり広い事がわかります。

玄関の看板にあった大浴場500名は大袈裟にしても、100名位 なら一度に入れそうです。

女湯との境であろう壁に、お城の天守閣とおぼしきモニュメントが存在感を見せていました。

背中に当たる浴槽タイルのヌメリ感がすごいのは…温泉の質が良いからだ。うん、きっとそうだ。

 

奥には砂利が引き詰めてある所に、木枕が並べてある場所があります。

これがジャリサウナか…長い間、誰も利用していない空気が漂っていたので利用は控えさせて頂きました。

 

他に砂利に水溜まりが出来ている様な場所もありました。

砂利を耕すトンボが置いてあるところをみると、ここがジャリ風呂であろうと想像できます。ここも衛生面を気にしない方なら楽しめると思います。

 

時間にして、僅か10分位でしょうか。

湯が熱い為、長居をする事もできず浴場を出ました。

 

そういえば、ここの従業員らしき人は受付にいた婦人以外見ていません。

一番混むであろう休日に、この広い施設をひとりのスタッフで営業してしまうバイタリティーこそが、息絶えずに続いている証なのかもしれません。

 

いやぁ、貴重な経験をさせて頂きました。

平成も終わろうとしている時代に、こんなシュールな温泉施設が残っていたとは。

今迄「ゴールデンランド木曽岬温泉」を知らずして、風呂好きを語っていた事に恥ずかしさを覚えました。

皆さんも、日常とはかけ離れた異空間を体験したかったら是非行ってみて下さい。